パムが電話に出た。
”悪夢のようだ。”
と言った。
グラムは全く、ジョージたちの意見に耳を貸さず、酒を飲んで、死ぬと言っているらしい。
私が心配したと通りの状況だった。
帰りたくない人間がイギリスでいい子にする訳がないのである。
犬だって無理矢理連れて行かれたところでいい子にする訳がない。
パムが
”どういうつもりでグラムのことが気になるの?"
と私に聞いた。
虫が騒ぐといいたいところだが、そんな答えを彼女が期待してるとも思えない。
彼女はどうして私がグラムに関わるのか分からないのだと思う。
関わるとロクでもないはめになるのに、どうして関わるのかと私に聞いているのである。
自分のダンナのジョージや2人の子供の家族のことだけでも大変なのに、グラムまで抱え込むのは迷惑な話なのである。
グラムのアル中の問題は彼がイギリスにいた時からなので、かれこれ30年以上の歴史があり、彼女自身の経験上もっとも関わりたくないことなのである。
ただ、ジョージはグラムにとって,兄以上の関係。親代わりだったジョージはグラムの人生の全てでもある。グラムはジョージなしでは生きていけないといっても過言でない。
けれど、パムにとってはとんだ厄介者なのだ。
基本的には12年前から私はメアリという人物が分からない。
彼女は立派な夫と地位を持ちながら、なぜグラムを必要としたのか?私には分からない。それは恋だったのか?12年も彼を自分の近くにおいて、ダンナとの離婚が決定した今、グラムを放りだすと言うのも分からない。
僕たちはずーっと一緒だと思った。離婚したら一緒に住めるようになるのだと思ってた。彼女には誰か居るらしい。僕はいらないのだ。イギリスに帰すのだ。
と私に話すグラムを気の毒だと思った。グラムは決してメアリのことを私の前で口にしなかった。おそらく、口にしたのはこの2,3ヶ月前位からだろう。
12年間、メアリはグラムと一緒に住むということをしなかった。
ダンナがいたからということもあるだろう。またお金があるから、彼に住むところをあてがうことができたのだ。
彼女にはコネチカットとミッドタウンのイーストサイドのマンションがあり、グラムはそのビルから一ブロック東にドアマン付きのビルにスタジオタイプだが、手頃な広さのアパートに住んでいた。このご時世であるから、このアパートが安い訳はない。
この2,3年前、高いからもうシティには住めないとコネチカットに移った。今度はメアリの本宅の近くだった。
私はケントのことで連絡を取らなければいけないので、グラムの居所を常に聞いたが、どこに居るのか分からなかったことも多々ある。メアリの連絡先を教えられなかった私は、彼のことを知る第3者を持たなかった。グラムからの連絡を待つ。これが12年間の私達の関係なのだ。
一体どんな生活をしているのか?彼の口から出る話しはまともに聞いたことがない。
嘘に決まっていると思えば、話しは右の耳から左の耳に抜けてしまう。
彼らは12年間,彼らの世界で生きた。
グラムとは、母の日,父の日、子供たちの誕生日、特にサンクスギビングのあたりにある彼の誕生日、クリスマス、このときだけの連絡すればいい関係だった。
ケントを含めた3人の子供たちはメアリのニューヨークのアパートやコネチカットの本宅に泊まっている。彼らの話しに寄ると、恐ろしく広い家で迷子になったとまで言っていた。
そして、不思議なことに誰もメアリのことを悪く言わなかった。
私はメアリのことをグラムとジョージのクイーンと呼んでいる。
クィーンは嫌がる56歳にもなる男を無理矢理にイギリスに帰すことが出来、そして、その兄、ジョージにその申し出を受け入れように命令もできるのだ。
ジョージとパムにもう一度頼んでみた。
メアリの連絡先を知らないか?
”向こうから連絡がくるだけで知らない。”
12年間、ジョージたちは決して私に彼女の連絡先を教えない。グラムも教えない。
それはクィーンの意思なのか?下部の考えなのか?私のことを危惧してなのか?
一週間ほどした頃、スコットランドのキャロルからからメールが来た。
ー私達がグラムの仕事をしなくちゃいけないとは残念なことだね。
ジョージとパムから連絡があって、昨日の朝、6時ごろ、グラムは救急車で病院に運ばれたらしい。
グラムは死ぬと言って酒を飲んでいるらしい。彼らにも生活があるので24時間付ききりで酒を飲まないように見張っている訳にも行かず、お手上げ状態らしい。
ジムは腰が痛くてここのところずーっと仕事を休んでいるし、私も乳癌の検査に行かなければならないし、ここのことは心配しないでね。再発もしないで元気にしているから。
とにかく今はイギリスには行けない状態なの。
ましてや、グラムを引き取ることなんて出来ない。
グラムには酒を止める気がないことは確かな様子ね。
何か分かったら、またメールするわね。
ラブ
スコットランド側の兄は、彼らの父が亡くなった時、19歳になっており、隣人で育ったたキャロルとは既に結婚していたらしい。
両親に育てられので、性格的なゆがみが余りなく、素直で楽しい性格だ。
この兄をグラムは長い間、嫌った。それがなぜなのかわからない。
グラムの50歳の誕生日のプレゼントでメアリはグラムの家族全員(ジョージ,パム、マイク,ビル、キャロル)をNYに招待した。
ジョージやマイクはこれが2度目のNYでうちに泊まったりしていたので、私達も彼らに対して緊張感もなく、楽しい家族の集いだった。
メアリは勿論、自分の家族と過ごしたのだろう。お金を払った彼女はここには居ない。
彼女が買ったというケーキがうちに来ていた。
この頃からグラムはビルに心を開く。ビルと交流するようになる。
この企画とお金を出したのはメアリだとぺらぺら私に喋ったのはビルとキャロルで、彼らは私にグラムとメアリのことを隠したりしない。
ジョージとパムは決してメアリのことに触れない。きっと、私が傷つくと思っているのだう。しかし、私は傷つかない。もう、終わったことなのだから。
だから、私はキャロルに連絡した。何か分かるかと思って、期待して。
私の目算は見事に当たった。
グラムが入院!
また、ジョージに電話しなくてはならないのである。
パムが電話に出ることが多かったが、パムは私とジョージと話して欲しいようであった。
私の問題はジョージと話しても、勿論パムと話をしても同じなのだが、彼らのランカスターなまりは強くて、50%ぐらいしか言っていることが分からないのである。
彼らにしてもに日本語なまりの英語は難しいと思う。
私達は勘で会話をしているのである。
パムの説明では、
”死ぬと言っているのは口だけ。あの人が死ぬ訳ないわ。
自分で救急車を呼んで入院したんですもの。私達もまだ病院に行っていなし、ジョージが今日行ってみると言っているから、明日にはもう少し詳しいことがわかると思うわ。”
パムはグラムが居なくなって、ほっとして休養中、病院に行く気にもならないという感じだった。ジョージがなんとかするといった感じの返事だった。
一応、入院の理由は分かったので、やや安心。
私はこういったことをメールでへレンに報告する日々が続いた。
12年前にタイムスリップ
私は彼が酒を飲むと自殺意識で恐怖感におびえるのを知っている。私が追い出した後、誰かのアパートを間借りしていて、そこも出なくてはならなくなったとかで、夜中に凄く酔っぱらって、今から死ぬという電話して来た。ケントを友達のところに預けて、行ったこともない地域に行って、ふらふらと歩いているグラムを見つけて拾って、救急病院に連れて行ったことがある。どうしても病院に入りたがらないので、水のボトルを沢山買って飲ましながら、酒が冷めるまでつきあったことがある。
話しは戻る。
彼の恐怖感は自分が自殺すると思うところにある。それは父親がそうやって死んでしまったことにある。しかし、彼には自殺願望がないことも知っている。ただ、こういった精神分裂症が何らかの形で別のポケットに入ったら、彼の父親のように自殺をしてしまうんではないだろうかという何%かの可能性を感じ不安になる。
グラムのアル中は精神病である。
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