2009年11月26日木曜日

14. 病室。

グラムは2人部屋の入り口側のベットだったので、ドアも開いていたのですぐに分かった。
私達は夕方5時頃でかけ、すったもんだで長い間,緊急病棟にいたので、グラムの部屋に入る頃には日が沈みかけている時間になってしまった。部屋全体の電気がついてないせいか、暗かった。個人用の間接ライトだけだからだろう。

私達が見えると、グラムはまた昨日のように、目を大きくして驚いた。
昨日のことも覚えていないのかもしれない。また、明日来るわねといった言葉など覚えていないのだろう。

”ハイ。

”ハイ、ダッド。”

今日のグラムはちゃんとした入院患者だった。布団だってかけてもらっているし、枕だってある。ベットの背をあげて座っていた。

同室の患者にハローと言うと、にこっとして、ハローと言った。同室の人はテレビを見ていた。テレビは天井から吊るされ、各自にあてがわれている。
グラムのテレビもついていた。
まず、私達は同室の患者に迷惑にならないようにカーテンを引っ張って仕切った。

”今日はどう?


”膝が曲がらなくて、動けない。”
と言って膝を指差す。

”少しは寝れた?

”いや、寝れないんだ。すぐに起きてしまう。膝は凄く痛むし。”
と言った後、何かを探し出した。看護婦さんを呼ぶベルを探しているという。
ベットの外側にぶら下がっているのを見つけて手渡した。

ー どうしましたか?

”すまんが、痛み止めの薬を持って来てくれないか、さっきから頼んでいるんだが。”

ー 持って行くから、もう少し待ってね。

”どうも、ありがとう。”

お酒はやや抜けているように思うが、彼の酒の量は私達の量ではないので、一日なんかで抜ける訳はない。
いろいろと聞かなくてはならないことがあるが、酒が抜けていないと話しにならない。
酒が入っていると、自分の都合の悪いことになると怒ってしまうからである。顔色を伺いながら、タイミングよく話しをもちださないといけない。
こういったところの彼の性格は私の父と似ているので、父と接するのと同じ要領でやらなくてはならない。

私は死ぬほどメアリの電話番号が知りたかった。ケントはそのことを知っているので、今日もグラムの携帯を手に入れることが自分の使命だと思っている。
そんなケントにグラムを任せて、私は詰め所に行ってみた。
そこで私は彼の前妻で彼の息子を連れて来ているのだが、彼の病状を知りたいのだが、誰かと話しはできないのかしら?と看護婦さんに聞いてみた。

カルテがあるから分かるけれど、彼の了解を得なくちゃね。

”彼女があなたの病状を知りたいって言っているけれど、話してもいいの?”
と看護婦さんがグラントに聞いた。

”勿論!そりゃ、いいとも。”
と言った。

看護婦さんと私は詰め所に戻り、看護婦さんはカルテを見ながらこういった。

”膝の打ち身がかなりひどくて歩行に無理があるので、本来はDetox病棟に入れられるのだけれど、歩けるようになるまで普通病棟のようね。”

”じゃあ、いずれは向こうに移るのかしら?


”そうね、多分。”

”本人は自分が癌だと言っているんですけれど、そういった検査はしないんでしょうか?

”うーん。分からないわね.そんなことは全く書かれていないし、ここには酒の飲み過ぎ,アルコール中毒のことと膝の打ち身のことしか書いてないわ。”

これは今から考えると、グラムのラッキーの1つである。
今まで、何度もグラムは病院にこうして入っている。5日ほど酒抜きをして出て来ては、また酒を飲むということを繰り返しているはずである。もし彼が膝を打っていなければ、面会謝絶の病棟に監禁されてしまっているので、私は病院に来たところで、何も分からなかったということになる。私はグラムの言うことを80%まであてにして聞いていないのある。彼の話しに裏付けが必要なのである。彼は大ほら吹きだが、100%嘘ではない。20%くらいまでは事実で、そこに80%の装飾品がつくのである。その80%の真実は彼の人生に関わっている人間から聞くしか方法がないのだが、この12年は全くメアリとの連絡はできなかったので、私はグラムの12年は何も知らないと言って過言ではない。唯一聞き出せるとしたら、ジョージだったが、彼は私に何も教えず、”メアリとグラムには関わるな”と言い続けたからである。
だから、こうして病院で第3者の話が聞けるのは大変有り難い。

12年前にタイムスリップ
私がグラムを追い出した後、彼の働いている会社の社長がグラムが入院と連絡して来た。もちろん、私のことだからすぐにでも飛んで行こうとしたが、ケントを預けなくては行けないので、預ける友達・シンディに相談した。私は拘束オーダーを取っていたのでグラムと直接会ってはいけない。そういうことも含めて、会いに行かない方がいいとシンディとその家族ははアドバイスした。そしてこの時の私は強く彼に会いにいかなへればとも思えなかった。何があっても彼の自業自得、私には関係ないと思った。
メアリが見舞いに行ったということは後々、グラムから聞いた。あの時の入院は何だったのだろう。
話しは戻る。

”ここにどのくらい居れるの?


歩けるようになったら、Detoxに移される。でも、ここには5日しかいれない。
メアリが健康保険をキャンセルしてしまうから、もうここにはいれないと思う。

昨日、話したドクターがリハブの30日のカリキュラムがあると言っていたわ。聞いてみたら? 保険やお金がないなら、Keswickに行って欲しいと私は思っている。 私はリハビリのことに詳しくないし、ここしか知らないからここを勧めているけれど、4ヶ月集中治療でしかも、更生率が高いし、試す価値があると思う。 連絡先とかプリントアウトして来た。その気になったら電話して。

*Keswickとはー宗教団体がボランティア(無料)主催するアルコール中毒者のためのリハビリ施設。男性のみ。120日のプログラムで家族とのオリエンテーションもある。
12年前にタイムスリップ
グラムの自殺騒動で呼び出された時
(”イギリス,そして入院”に記載)、彼はホームレスになるところだった。
私は彼のアルコール中毒から脱すれば、人生をまともに考えれるようになるのではないかという期待は捨てられなかった。彼の人生は酒を機転にして狂っているからだ。
私が故意にしているアメリカの家族がKeswickと云うリハビリの施設を教えてくれた。
私はグラムを連れて、そこを訪れた。
1時間ほど南にある施設で、大きな池があり自然に囲まれたいいところだった。池の周りを歩いて、ここに入るなら、私は協力したいと言った。
Keswickの人はこう私達に説明した。

本人がその気にならなければ、ここには来れないんです。非常に高い確立で更生するので、とても多くの人が入りたがっているので、順番待ちということになります。条件としては、ここに入りたいという意思表示が必要なので、毎日、電話をかけてきて頂きたいのです。
その強い意志が順番を早めることもありますが、2,3ヶ月かかるかもしれません。

ホームレスとなったグラムがそこに入るにしても2,3ヶ月、彼が滞在する場所が必要だった。
私達が懇意にしているアメリカ人の家族はバブテストの信者で、非常に信仰心が強い。彼らが教えてくれたKeswickも非常に信仰心が強いところである。グラムはそれがどうやら嫌なようではあったが、信仰心なしに更生はできない。
その家族は彼をKeswickが受け入れるまで、彼らの地下に住んでくれても構わないと言ってくれた。そして、グラムはそのリハビリに行くと言ったので、彼らのところに居候することになった。彼が居候をしている頃、その家族はバケーションで6日間留守をしなければならず、グラムはその家に一人で一週間ほどいなくてはならなくなった。
毎日、芝生と花に水をやることとゴミを出すのが彼の仕事だった。
しかし、彼のボロは出た。
彼らが戻ってくると、芝生と花は水に飢えて乾いていた。酒を飲んでいた形跡。Keswickに電話をかけた記録は全くなく、メアリに電話をかけた記録だけが電話の明細にはっきり記されていた。
信仰心の強い彼らもここまでが限界で、すぐに出て行ってくれとグラムを追い出した。
12年前のグラムの行動は本当に悪魔のようだった。
かかわるな。であった。
話しは戻る。

今回もグラムがKeswickに乗気でないのは、彼の対応で分かった。
それが宗教的な理由であることも知っている。
けれど、ホムレスのグラム行くところは限られているように思えた。
かといって、本人の強い意思がなければ、どうにもならないというのも事実であった。

”これは万が一の手段として考えてみて。

と紙をベットの横の棚に置いた。

数日で病院を追い出されるのだから、膝が痛いと言って寝ている場合ではないと私は思う。
私の家は受け付けられないのである。

私達がそろそろ帰るという頃、看護婦さんが痛め止めの薬を持って来てくれた。
その看護婦さんに、
これが僕の息子だ。と自慢げにケントを紹介した。

そして、
”ビルに僕が入院していることを連絡してほしい。
それから、今度来るときひげ剃りとヘアスプレー、ブラシを持って来てほしいんだ。トラベル用のやつでいい。ひげ剃りは10ドルくらいで買える使い捨てのやつ。”
と言った。

”いつ来れるか、約束はできないわよ。”

”分かっている。もし、都合がよければだ。”

帰りの車の中でケントはこう言った。
”マム、ダッドは電話を肌身離さず持っていて、あれを貸してくれというのは無理だったよ。”

”分かっている。いろんなことが無理だった。Keswickには行かないと思うわ。

Keswickって何?

12年前の話をこの子にもしなくてはならなかった。

”宗教的に厳しいんだろ。ダッドは無理。”
と言い切った。

”でも居心地のいいところに送る訳にも行かないわよ。


う〜んと2人でうなってしまった。

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