グラムはジョージとパムと喧嘩してアメリカに帰って来たのだから、もうジョージには電話が出来ない。これはグラムにとって片腕をもぎ取られたのと同じくらい、大変なことだった。
精神的に頼れる人を失したわけだ。
そのせいか、それからは一番上の兄、ビルの名前を出すようになった。しかし、ビルとは精神的に距離があり、余程のことがない限り頼るとは思えないのだ。それでもビルに連絡してくれというのだから、余程の事態なのかもしれなかった。
へレンに癌だという電話をした時もスコットランドに帰るようなことを言ったみたいだし、最悪はスコットランドに帰るつもりなのだろうか。
彼は父方のイギリスの血より母方のスコットランドの血を誇りに思っている。だから家紋を入れ墨している。生まれもスコットランドである。そして、メアリもスコットランド人である。
私が大阪で育ったのに、両親の里で、私が三歳まで住んだところ(信州)を自分の里と思っているのと近い感情なのだろうか?私は大阪人ではなく信州人なのである。彼がイギリス人といわれるより、スコットランド人といわれたがるのと同じだ。
私もスコットランドのキャロルに連絡を取りたかった。彼女なら、メアリの電話番号を教えてくれるかもしれないと思ったからだ。しかし、キャロルのメールアドレスはあるが、電話番号がない。
そうだ、へレンだ。へレンに聞いてみよう。
ー 今日、病院に行って来たけれど、グラムはしばらく死にそうにないわ。書くことが多すぎてメールでは無理。電話にして。 ジムに連絡しろといわれたんだけれど、メールのアドレスはあるけれど電話番号がないのよ。 教えてくれる? じゃ。
とメールした。
ー 一体、どうだったの?何があったの?
今晩電話するわ。xxxxxxxxxxxxx これがビルの電話番号,変わってなければいいわね。
じゃ、後で。
とメールが返って来た。
キャロルに電話した。
”メールでは言いきれないから電話にしたのだけれど、元気?”
"私達は大丈夫だけれど。
ごめんなさいね。私達がイギリスに行かれない間にグラムはアメリカに帰ってしまって、私達は何も出来なかったわ。ジョージもパムも何も話してくれないのよ。話したくないみたいね。本当に簡潔なことしか言ってくれないの。酒を一杯飲んであばれたらしいわ。ひどい人間だと言っているのよ。"
”私にもイギリスでのことはよくわからないけれど。私が日本に行く3日まえにグラムがアメリカに戻って来たという電話をしてきたの。
それから、私達は3週間日本にいたの。そして、アメリカに戻ったら、3日前なんだけど、グラムからの電話で膵臓癌だというし、一体、何がなんだか分からないのよ。
グラムは私が日本に居る間にへレンにも電話して、膵臓癌だって言ったのよ。クレーグやジュリアもそう思っているらしい。グラムはまた入院しているのよ。グラムが病院から電話して来たときは、癌で死ぬと思って驚いて飛んで行ったのよ。
私はどうしてもメアリに連絡を取りたいの。メアリの都合でグラムにしていることが、こうして私のところにとばっちりが来るのよ。それなのに私は12年も彼女の連絡先を知らない。ジョージはこの12年間,決して教えてくれないし、ましてやグラムが教える訳がない。これではらちが明かないのよ。頼むわ、キャロル、私を助けて。”
”分かったわ。あなたのために何でもしてあげる。今ここに電話番号を持っていないけれど、調べてメールするわ。
かわいそうに、ろくでもないグラムのお陰であなたはいつも迷惑を被って。かわいそうだわ。何とかしてあげる。”
”ありがとう。助かるわ。”
”それで、グラムは癌なの?”
”私は癌ではないと思うわ。”
”そうよね。そんなはずはないわ。ジョージもでまかせだと言ってたし。
とにかく、私に任せて。”
とキャロルは優しかった。
その夜、へレンから電話。
”どうなっているの?グラムは?”
”グラムは大丈夫よ。酒の飲み過ぎで救急車で運ばれた時に打った膝の痛みで苦しんでいるだけ。”
"それで彼は癌なの?"
”あくまでも私の意見だけれど、癌ではないのと思うのよ。頑強な内蔵だわ。あれだけ飲めば、癌で死んでいてもおかしくないわよ。今度来る時はひげ剃りとヘアスプレーを持って来て欲しいというのよ。”
へレンは声を高くして笑った。
“私でもヘアスプレーなんて使わないわ”
グラムとはそういう人なのある。身だしなみに気を使う人で紳士でなくてはならない人なのである。
”でも冗談でも言うことではないわ。癌だなんて。クレーグやジュリアまでに心配させるなんて”
と、今度こそ真剣に怒っているようである。
私はこの二日間の話しを極力簡潔に話した。
”私はもうグラムにはお手上げだわ。関わったところで何もできないし、頭に来るだけだわ。
彼がまともな人間で、養育費を送ったり、子供たちに会いに来たりしてくれたら、私もこんなに働らかなくてもよかったって思うし、楽に暮らせたかもしれないのに。あの人のアル中で、私は本当に苦労したのよ。これ以上は、もう、願い下げ。あなたもそう思ってもう関わらない方がいいわよ。ケントの人生が一番大事。”
私も関わらなくて済むのなら、関わりたくなかった。
けれど、電話がかかって来るのはうちなのである。
そして、グラムが皆に言った膵臓癌は真っ赤な嘘と私は報告する必要があった。
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14 年前
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