2009年12月22日火曜日

20. 最後の日

ケントは明日の靴の買い物のことばかり考えている。文房具も買わなければと言っている。

”だから、言ったでしょ.何があるか分からないから、何事も前もってしておかなければならいって。問題はグラムを残して出て行けるかどうかってことね。”

ケントにとってはこの父親事はただの迷惑でしかなかった。
とにかく、私はくたくただった。
シャワーを浴びて、眠りたかった。

4時か5時頃、物音で目が覚めて台所に行くと、暗がりにグラムが立っていた。
私は寝ぼけいて、すっかりグラムが地下にいることを忘れていたので、びくっとした。

”お腹がすいたんで、玉子を食べた。構わないね。

ええ.構わないわ。大丈夫?


グラムは地下に戻って行った。

次の日の朝、いつものように私はコーヒーを入れた。
もちろん、グラムにも。

それからブルースに電話した。
ブルースはこういった。

"キャンセルがあったから、今日中にベットを用意します。明日の朝連れて来なさい。
くれぐれも酒は飲ませないように。"

”サンキュー、サンキュー、じゃ、明日の朝に会いましょう。

ブルースは
ははっと笑った。

”グラム、明日の朝に来なさいって。よかったわね。

グラムは何も言わなかった。

それから、私は彼のカバンを開けて洗う物と洗わなくていい物の選り分けた。
昨日見つけた甚平を渡して、シャワーをしてこれに着替えてほしいと頼んだ。
それから、カバンのそこから小銭を見つけたけれど、小銭もお金なのよ。6ドルもあったわよ。とその小銭を見せた。

"着替える前に外を少し散歩したい。ダンキンドーナツまで行ってコーヒーを買ってくる。"
と言って出て行ってしまった。

”ケント,一緒に散歩に行くべきだったわよ。

"この小さな町で僕があんなホームレスと歩いていたら、皆が変な噂をするに決まっている。誰と聞かれて、なんと返事をするんだい。ダットとは言えないだろ。”

確かにケントは町でも有名だし、この町は小さいので噂にはすぐなるかもしれない。彼は正しい。
小銭がテーブルから消えていた。
コーヒー?コーヒーは今飲んだじゃないか?!
私達は顔を見合わせて、
”オー、シット。”と叫んでしまった。

”酒を買いに行ったのよ。急いで酒屋まで行って、待機して。どこの酒屋か分かる?

”知っている。いつも行く酒屋。”

ケントはスクターで酒屋まで走った。私は車で探すことにした。どの道を選んだかわからなかったからだ。けれど、簡単にグラムを見つけた。見つからないように遠くで止まったつもりだったが、グラムが道を曲がる際、こちらをちらっと見た気がした。それからもゆっくりゆっくり走って後をつけた。
町のメインの交差点に彼が着いたとき、彼が右に行くか左に行くかで、コーヒーか酒か分かる。私はこのまま行くと彼を追い越してしまうので、アパート用の駐車場に車を入れた。
その駐車場からはグラムが見えなくなるので、ケントに電話して彼をそこから尾行してもらおうと思った。

”マム,ダッドは今、右に曲がった。”

私は視線をあげると、グラムが私の車を覗いていた。
やはりあの角を曲がるとき、グラムは私の車を見たのだ。
後をつけているのをやっぱり知っていたのだ。しかも、この駐車場に入るのも見ていたのだ。

”ケント,尾行は完全に失敗。あなたのおとうさんは今、私の車を覗いている。

私は窓を開けて苦笑いをした。

”コーヒーはもういい。帰ろう。”
とグラムが言った。

”ケント、そこで待ていて、今ピックアップするわ。”

ケントは酒屋の前にいた。
3人乗り込んだ車の中はいろんな意味での気まずさでシーンとしていた。

家に着くと横になりたいとグラムは言った。
その前に洗濯しなくてはいけないから、この甚平を着てくれと手渡した。今回は文句も言わずに着替えた。外人が着る甚平はちょっと可笑しかったが、それなりでもあった。
ソファに横になったので、布団もかけてやった。

私達はケントの靴を買いに出かけることにした。
出かける前に、あっと思たことがあった。
フライパンを入れてあるトビラに焼酎を入れてあったことを思い出した。出かける前に調べると、焼酎はそこにあったし、減っているようでもなかった。
日本語で書いてあるからお酒だと思わなかったのかもしれないと、ラッキーに思い、それを私のクロゼットの奥に隠した。

グラムはテレビはつけていたが寝ているようだった。
しかも、甚平などを着せられているから、出かけるはずもないだろうと思った。

車の中でケントに隠し忘れていた焼酎のことを話した。
呆れた顔で私を見た。

”ダッドはシャワーを浴びろというのに浴びないし、どこで何をしていたか知らないが、汚らしい。家に入れてもらったくせに、マムの言うことを聞かないし、夕べなんて、あんなにおいしそうな晩ご飯を作ってもらったくせに、有り難いという態度すらない。
今度、失礼なことを言ったりしたら、俺は一言、言ってやるつもりだ。”
と、かなり真剣に怒っている。

本当に一言,言ってくれればいいが。
うちの息子も影では強い。

”お昼ご飯はどうしようか? 何か、ダッドに買って行く?”

”何も買わなくていいよ。また食べないかもしれないし。”

ケントの言う通りだった。買って帰っても感謝されないだろうと思った。
靴を買った後、ファマーズマーケットで果物やブレッドを買ったりして、家に戻った。
グラムはソファで寝ていた。

ケントはソファを取られて不機嫌だった。たった一日の辛抱、明日の朝にはリハビリに入るんだからと言い聞かせなければならなかった。

”ケントが言ったんだけど、シャワーを浴びて欲しいのよ。どこで寝ていたか知らないけれど、外の汚い物をうちに入れられたら困るって。まぁ、もう遅いけれど。ケントの言う通りだと思うの。”

と言ってみた。

”そうだな。悪かった。シャワーを浴びる。”

洗濯も終わっていたので、彼が着る服もあった。

グラムも何も食べないでいる訳にもいかないだろう。
何を食べさせればいいのだろう?
母の日だったと思うのだが、グラムがラザニアを持って来て祝ってくれた。彼は
いつものことだが疲れていて、食べ終わるとそそくさと帰って行くというのがお決まりだったが、なぜかゆっくりしていて、3人で映画を見た。珍しい。その上、今日は運転して帰るのが辛いほど疲れているんで、ソファで寝てもいいかなと聞いた。
酒を飲んでいなかったので、泊まっても構わないと言った。
今から考えると、あの頃にはすでにメアリとの仲は終わっていて、かなり深刻な状態だったのかもしれない。
今住んでいるところを追い出されるとも言っていた。
こんな話しはこの12年の間に多々あったので、私もいい加減に聞いていたのだと思う。

このときにうどんを作ってやったら、おいしいと言って汁まで全部飲んだ。
この時のことを覚えているので、うどんなら食べるかもしれないと思った。

シャワーを浴びて小奇麗になったグラムにうどんを食べるかと聞いたら、食べると言った。

うどんを前にして、何かを考えていて、なかなか手を付けない。
ようやく箸をつけた。どうやらお腹も空いていたらしく、どんどん食べている。
今回も奇麗に汁まで飲んだ.静かに箸を置いた。そして祈るかのようにしばらく目を閉じた。
神妙なグラントを始めて見た。まるで、死刑囚が階段を上っているような感じだった。

”サンクス、フージ。とても、おいしかった。”

お箸を揃えて静かに置いた。まるで、日本人のようだった。
この時の彼のサンクスは重みがあった。本当に感謝されていると思った。

気になるのは友達のところにあるグラムの荷物のことだった。
Pというグラムの友達のこと。一体誰なのか知らないが、私がこの人にあって荷物を引き取りに行かなければならないらしい。

Pが今日カリフォルニアから帰って来ると行っていたので、ご飯を食べた後にでも行って荷物を取って来れないかと、私は何度も聞いた。

”Pに連絡しているけれど、返事がない。まだ帰って来てないようだ。
どうやら、フージ,君にやってもらわなくてはならないようだ。”

”全部が揃っているかどうかは分からないわよ。いつか自分で確認して、直接聞いてみることね。

この晩はグラムがソファで寝ることを許した。
ありがとうと言った。

明日はケントの高校の初登校でもある。
そして、グラムのニューライフの始まりの日でもある。
そして、今日は最後の日なのである。

朝、
ケントが出かけるとき、
”帰って来たらダッドはもういないから、挨拶して行きなさい。”
というと、

”ダッド、気をつけて。グッドラック。”

”サン、ちゃんと勉強するんだよ。”
とグラムは言った。

私が車でケントを学校に送って行っている間に、グラムはちゃんとシャワーを浴び、髭も剃り
、ここに連れて来た時とは全くの別人。どこかいいところに行く訳でもないのに、彼はスキっとしたいい男前になっていた。

トーストと目玉焼きを作った。
もちろん、コーヒーと。
ダンキンドーナツのコーヒーが飲みたいなどとは言わなかった。
私の作った物に文句を言わずに食べ、感謝しているというのも別人のようである。

ブルースから電話があった。
本当に来るのかどうかの確認の電話だった。

”1時間以内には連れて行けると思うわ。会えるのを楽しみにしているわ。”


と言うとまたははと笑った。

”今から行くところはここから20分よ。本当にグラムあなたはラッキーだわ。”

”もっと遠いのかと思った。”

すぐ近くよ。NJとの境目よ。用意はできているみたいだし、もう行く?

この時のグラムのスマイルはやや不安に満ちていたが、肯定的なスマイルでもあった。

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