2009年12月22日火曜日

20. 最後の日

ケントは明日の靴の買い物のことばかり考えている。文房具も買わなければと言っている。

”だから、言ったでしょ.何があるか分からないから、何事も前もってしておかなければならいって。問題はグラムを残して出て行けるかどうかってことね。”

ケントにとってはこの父親事はただの迷惑でしかなかった。
とにかく、私はくたくただった。
シャワーを浴びて、眠りたかった。

4時か5時頃、物音で目が覚めて台所に行くと、暗がりにグラムが立っていた。
私は寝ぼけいて、すっかりグラムが地下にいることを忘れていたので、びくっとした。

”お腹がすいたんで、玉子を食べた。構わないね。

ええ.構わないわ。大丈夫?


グラムは地下に戻って行った。

次の日の朝、いつものように私はコーヒーを入れた。
もちろん、グラムにも。

それからブルースに電話した。
ブルースはこういった。

"キャンセルがあったから、今日中にベットを用意します。明日の朝連れて来なさい。
くれぐれも酒は飲ませないように。"

”サンキュー、サンキュー、じゃ、明日の朝に会いましょう。

ブルースは
ははっと笑った。

”グラム、明日の朝に来なさいって。よかったわね。

グラムは何も言わなかった。

それから、私は彼のカバンを開けて洗う物と洗わなくていい物の選り分けた。
昨日見つけた甚平を渡して、シャワーをしてこれに着替えてほしいと頼んだ。
それから、カバンのそこから小銭を見つけたけれど、小銭もお金なのよ。6ドルもあったわよ。とその小銭を見せた。

"着替える前に外を少し散歩したい。ダンキンドーナツまで行ってコーヒーを買ってくる。"
と言って出て行ってしまった。

”ケント,一緒に散歩に行くべきだったわよ。

"この小さな町で僕があんなホームレスと歩いていたら、皆が変な噂をするに決まっている。誰と聞かれて、なんと返事をするんだい。ダットとは言えないだろ。”

確かにケントは町でも有名だし、この町は小さいので噂にはすぐなるかもしれない。彼は正しい。
小銭がテーブルから消えていた。
コーヒー?コーヒーは今飲んだじゃないか?!
私達は顔を見合わせて、
”オー、シット。”と叫んでしまった。

”酒を買いに行ったのよ。急いで酒屋まで行って、待機して。どこの酒屋か分かる?

”知っている。いつも行く酒屋。”

ケントはスクターで酒屋まで走った。私は車で探すことにした。どの道を選んだかわからなかったからだ。けれど、簡単にグラムを見つけた。見つからないように遠くで止まったつもりだったが、グラムが道を曲がる際、こちらをちらっと見た気がした。それからもゆっくりゆっくり走って後をつけた。
町のメインの交差点に彼が着いたとき、彼が右に行くか左に行くかで、コーヒーか酒か分かる。私はこのまま行くと彼を追い越してしまうので、アパート用の駐車場に車を入れた。
その駐車場からはグラムが見えなくなるので、ケントに電話して彼をそこから尾行してもらおうと思った。

”マム,ダッドは今、右に曲がった。”

私は視線をあげると、グラムが私の車を覗いていた。
やはりあの角を曲がるとき、グラムは私の車を見たのだ。
後をつけているのをやっぱり知っていたのだ。しかも、この駐車場に入るのも見ていたのだ。

”ケント,尾行は完全に失敗。あなたのおとうさんは今、私の車を覗いている。

私は窓を開けて苦笑いをした。

”コーヒーはもういい。帰ろう。”
とグラムが言った。

”ケント、そこで待ていて、今ピックアップするわ。”

ケントは酒屋の前にいた。
3人乗り込んだ車の中はいろんな意味での気まずさでシーンとしていた。

家に着くと横になりたいとグラムは言った。
その前に洗濯しなくてはいけないから、この甚平を着てくれと手渡した。今回は文句も言わずに着替えた。外人が着る甚平はちょっと可笑しかったが、それなりでもあった。
ソファに横になったので、布団もかけてやった。

私達はケントの靴を買いに出かけることにした。
出かける前に、あっと思たことがあった。
フライパンを入れてあるトビラに焼酎を入れてあったことを思い出した。出かける前に調べると、焼酎はそこにあったし、減っているようでもなかった。
日本語で書いてあるからお酒だと思わなかったのかもしれないと、ラッキーに思い、それを私のクロゼットの奥に隠した。

グラムはテレビはつけていたが寝ているようだった。
しかも、甚平などを着せられているから、出かけるはずもないだろうと思った。

車の中でケントに隠し忘れていた焼酎のことを話した。
呆れた顔で私を見た。

”ダッドはシャワーを浴びろというのに浴びないし、どこで何をしていたか知らないが、汚らしい。家に入れてもらったくせに、マムの言うことを聞かないし、夕べなんて、あんなにおいしそうな晩ご飯を作ってもらったくせに、有り難いという態度すらない。
今度、失礼なことを言ったりしたら、俺は一言、言ってやるつもりだ。”
と、かなり真剣に怒っている。

本当に一言,言ってくれればいいが。
うちの息子も影では強い。

”お昼ご飯はどうしようか? 何か、ダッドに買って行く?”

”何も買わなくていいよ。また食べないかもしれないし。”

ケントの言う通りだった。買って帰っても感謝されないだろうと思った。
靴を買った後、ファマーズマーケットで果物やブレッドを買ったりして、家に戻った。
グラムはソファで寝ていた。

ケントはソファを取られて不機嫌だった。たった一日の辛抱、明日の朝にはリハビリに入るんだからと言い聞かせなければならなかった。

”ケントが言ったんだけど、シャワーを浴びて欲しいのよ。どこで寝ていたか知らないけれど、外の汚い物をうちに入れられたら困るって。まぁ、もう遅いけれど。ケントの言う通りだと思うの。”

と言ってみた。

”そうだな。悪かった。シャワーを浴びる。”

洗濯も終わっていたので、彼が着る服もあった。

グラムも何も食べないでいる訳にもいかないだろう。
何を食べさせればいいのだろう?
母の日だったと思うのだが、グラムがラザニアを持って来て祝ってくれた。彼は
いつものことだが疲れていて、食べ終わるとそそくさと帰って行くというのがお決まりだったが、なぜかゆっくりしていて、3人で映画を見た。珍しい。その上、今日は運転して帰るのが辛いほど疲れているんで、ソファで寝てもいいかなと聞いた。
酒を飲んでいなかったので、泊まっても構わないと言った。
今から考えると、あの頃にはすでにメアリとの仲は終わっていて、かなり深刻な状態だったのかもしれない。
今住んでいるところを追い出されるとも言っていた。
こんな話しはこの12年の間に多々あったので、私もいい加減に聞いていたのだと思う。

このときにうどんを作ってやったら、おいしいと言って汁まで全部飲んだ。
この時のことを覚えているので、うどんなら食べるかもしれないと思った。

シャワーを浴びて小奇麗になったグラムにうどんを食べるかと聞いたら、食べると言った。

うどんを前にして、何かを考えていて、なかなか手を付けない。
ようやく箸をつけた。どうやらお腹も空いていたらしく、どんどん食べている。
今回も奇麗に汁まで飲んだ.静かに箸を置いた。そして祈るかのようにしばらく目を閉じた。
神妙なグラントを始めて見た。まるで、死刑囚が階段を上っているような感じだった。

”サンクス、フージ。とても、おいしかった。”

お箸を揃えて静かに置いた。まるで、日本人のようだった。
この時の彼のサンクスは重みがあった。本当に感謝されていると思った。

気になるのは友達のところにあるグラムの荷物のことだった。
Pというグラムの友達のこと。一体誰なのか知らないが、私がこの人にあって荷物を引き取りに行かなければならないらしい。

Pが今日カリフォルニアから帰って来ると行っていたので、ご飯を食べた後にでも行って荷物を取って来れないかと、私は何度も聞いた。

”Pに連絡しているけれど、返事がない。まだ帰って来てないようだ。
どうやら、フージ,君にやってもらわなくてはならないようだ。”

”全部が揃っているかどうかは分からないわよ。いつか自分で確認して、直接聞いてみることね。

この晩はグラムがソファで寝ることを許した。
ありがとうと言った。

明日はケントの高校の初登校でもある。
そして、グラムのニューライフの始まりの日でもある。
そして、今日は最後の日なのである。

朝、
ケントが出かけるとき、
”帰って来たらダッドはもういないから、挨拶して行きなさい。”
というと、

”ダッド、気をつけて。グッドラック。”

”サン、ちゃんと勉強するんだよ。”
とグラムは言った。

私が車でケントを学校に送って行っている間に、グラムはちゃんとシャワーを浴び、髭も剃り
、ここに連れて来た時とは全くの別人。どこかいいところに行く訳でもないのに、彼はスキっとしたいい男前になっていた。

トーストと目玉焼きを作った。
もちろん、コーヒーと。
ダンキンドーナツのコーヒーが飲みたいなどとは言わなかった。
私の作った物に文句を言わずに食べ、感謝しているというのも別人のようである。

ブルースから電話があった。
本当に来るのかどうかの確認の電話だった。

”1時間以内には連れて行けると思うわ。会えるのを楽しみにしているわ。”


と言うとまたははと笑った。

”今から行くところはここから20分よ。本当にグラムあなたはラッキーだわ。”

”もっと遠いのかと思った。”

すぐ近くよ。NJとの境目よ。用意はできているみたいだし、もう行く?

この時のグラムのスマイルはやや不安に満ちていたが、肯定的なスマイルでもあった。

2009年12月21日月曜日

19. 彼のソファ

月曜日の夜中のマンハッタン、イースト48丁目までのドライブは15分くらい。電話があってすぐ出たので、グラムがさほど待ったとは思えない。
しかし、彼の昔のアパートの前に着いたのに彼はいない。

”ハロー。どこにいるの


もう着いたのか。分かった、外に出る。

昔はここからバーバリーのダッフルコートを来て出てきた。
この夜は私が買って持っていったグレーのジャージーの上下で、私の黒の革のボストンバックを持って、とかされてない髪、剃られてない髭、その上足を引きずって出てきた。
救急車で運ばれた時の打ち身はまだ完治していないようだった。
もう彼は48丁目の贅沢なマンションの住人ではないのだ。全くの別人だった。

”ドアマンが入れてくれたんだ。”

”よかったわね。さほど待たなかったでしょ。”

”あぁ。来てくれてありがとう。心から感謝する。”

私はしばらく言葉がなかった。感謝されるのはうれしいが、この事態がいったいどう進展していくのか不安ではあった。

”今晩は地下のソファに寝てほしいの。私の家は小さいじゃない、だから、私たちはこの事態の準備ができないし、いつもの生活をギブアップできないし。”

”もちろん、それで構わない。十分助かる。”

”ブルースと話したけれど、ベットがないから入れないそうよ。1週間ぐらいかかるかもしれないけれど、キャンセルがあるかもしれないともいっているから、明日の朝、また電話して聞いてみる。グラム、お酒を飲んでいるとそこに入れないのよ。”

”分かっている。飲んでいない。”

飲んでいて飲んでいないと言い続けて30年なのだ。
悲しいかな。飲んでいるのである。

急いで出て来たので、冷蔵庫にあるビールを隠すのを忘れたと思った。

”今後の知識として知っておいて欲しいんだけれど、公園に行く前に、ゴミ箱をあさって新聞紙、デリなどで段ボールを確保して、持っているだけの服を重ね着したら、寒さに対応出来るわ。これはホームレスの常識よ。

たいした会話も交わさないうちに家に着いてしまった。

”ハイ、サン。”といつものように言って家に入って来た父親をちらっと見ただけで、何事もなかったかのようにコンピューターに向かっているゼント。
こんな惨めな父親を見なくてはいけない息子も気の毒だ。

”グラム,何も食べていないんでしょ。何か作るわ。


ダイニングの椅子に座った。
取りあえず、暖かいお茶を渡した。

ありがとうと言ったが飲むようにも思われなかった。

私はこの人と4年近く暮らしたが、この人の好きな物とか、何が喜ぶのかわからない。私の料理の中では手巻き寿司だけは文句を言わず、喜んで食べた。その他,一体何が好きだったろうか?私が与える物は全て不満そうだったから、仕事のない暇なグラムは勝手に自分で作って食べていた。だから、一体何を食べさせればいいのか分からなかった。
冷凍庫にミートボールがあった。これなら食べるだろうと思って作った。
その料理中にグラムに見つからないようにビールを隠した。

出来上がったミートボールをダイニングテーブルに置いた。
グラムはすぐに手を付けず、それを眺めていた。

電話が鳴った。へレンからだった。
電話を取って地下に行った。

”一体どうなったの?”

”ここにいるわよ。”

”ええ〜。”

”公園に寝ると言ったけれど寒くて寝れないと電話してきたの。連れて帰って来たのよ。”

”グラムはノースキャロライナに住んでなくてラッキーね。私なら絶対に迎えにいかないわ。あくまでも公園で寝てもらうわ。”

”ラッセル・E・バレイズデールが一応彼を受け入れているのよ。ベットの空きがないないの。一週間ぐらいかかると云われているけれど、何とかもっと早くに引き取ってもらえるように交渉するわ。

”でも、危険じゃない?グラム。”

”今、彼は私を失うと本当に誰の力も借りれなくなるから、私には従順だわ。”


”本当に大丈夫?”

”大丈夫。メールするわ。


戻って来ても戻って来ても、彼のミートボールは減っていなかった。

”食べたくなければ、食べなくていいのよ。

”食べれない。

”できればシャワーを浴びて欲しいんだけれど。”


”疲れているんだ。シャワーは今、浴びたくない。少し休ましてくれないか?”

”じゃ、下のソファーで寝れるようにしてくるわ。

私は地下にシーツや掛け布団を運んだ。
地下で作品を創り始めていたので、地下に彼をおくと仕事ができなくなるのも少し困った。
明後日はケントの学校が始まる。しかも、彼は高校に進学した始めての日。日本から戻った後,彼はアイスホッケーのキャンプやサッカーの練習、そしてこの父親の騒動で何も用意ができていない。
さすがにスケートボードで穴だらけの靴で高校生としての初日は恥ずかしいというのでそれもそうだなと納得して、明日はどうしても新しい靴をホーボーケンまで買いに行ってやることにしたが、問題はグラムをどうするかである。この状態では仕事はどちらにしてもできないだろうと思った。

”今、着ている服とか、汚れている服は明日全部洗うわ。”

その間に着れる服がうちにはあるだろうか?
私の男物の甚平を見つけた。グラムはかなり痩せてしまっているので着れるかもしれないと思った。

”ここにいる間に、ラッセル・E・バレイズデールに入る前に、Pのところに2人で行って荷物を取ってこれるといいわね。”

”Pはまだカリフォルニアで帰って来ていない。連絡してみる。
君の友達はなんて言っているんだい?”

”誰、私の友達って?”

”ブルースとかいう。”

”あぁ.明日の朝またかけてくれって。ベットが空くかの知れないしって。”

ついにブルースは私の友達になってしまっている。
もしかしたら、自分が彼に電話をかけたことも覚えていないのかもしれないなと思った。
普通の人と普通に話しをしていると思ってはいけないのだ。

メールが届いた。クレーグからだった。

— 本当は電話をしたいけれど、そこに僕の父がいるのを知っているので父が万が一暴力をふるったりするといけないのでメールにすることにした。
このところ、何度か父からメールを貰っている。そのメールで思うのだけれど、父は非常に不安定な状態のようで、特に彼の身体がアルコールを要求している状態に思われる。アルコールが切れると身体のバランスを崩して暴れるかもしれない。
どうか、直ちに父を家から追い出して欲しい。人ごみ、モールとか、消防署,警察、どこかそういった目撃者がいて,父が暴力に走れないところに父を置いて来て欲しい。どうか家に置かないで欲しい。父のことを心配して面倒を見ようとしている気持ちは分かるが、彼はかなり危険な状態だから心配でならない。
僕の父を2人の人生から完全に剥奪して欲しい。
僕は決して父にはもう近づきたくない。父がどんな状況に陥ろうとそれは彼の人生で僕は関係ない。特にフーディには全く責任のないことなんだ。関わらないで欲しい。
フーディとケントは僕にとって大事な家族だが、父はもう僕にとってはただの危険な男でしかない。お願いだから、家から追い出してほしい。
ラブ、クレーク

ジョージと全く同じで、クレーグにとってグラムは危険人物以外の何者でもないようだ。
それにしても、なんて悲しい話しなんだろう。息子が父親を見捨ててくれと私に頼むなんて。

12年前にこの危険人物を警察を呼んで追い出した私が、こうして迎えに行って連れて来たのだ。
私がその追い出した危険人物に優しくするには、3つのはっきりとした理由がある。
1)私のドアをたたいて,助けを乞う者に、それが誰であっても必要性をかんじたらNOと、私は言えない。
2)グラムは私にしたことを3年前に謝っている。それからは私に対して失礼な態度はほとんどなく、父親としてなんとかしたいという気持ちは伺える。
3)目の前にリハビリの施設に入れれるチャンスがぶら下がっている。
ここまで頑張ってブルースにこちらの事情を説明して、ついに受け入れますと言ってくれたのだ。本人もついにそこに行く気になっているのだ。12年かかったその日が目の前にあるのだ。これを見逃す訳にはいかない。
私がここで彼を見張って連れて行かなくては誰がするのだ。グラムに逃げてもらっては困るのだ。
そしてこれらの要素がグラムのミラクルを産むかもしれないと期待するのである。

地下にあるソファは彼がシカゴから持って来たソファだった。グラムを追い出してから私はガレージセールをして彼が使っていた物のほとんどは売ったり捨てたりした。
物で嫌な思い出を引きずりたくなかった。それなのにこのソファはなぜか捨てずに地下に置いた。この日のためだったのだろうか?

グラムも皮肉だなぁと言った。

そうね。きっとよく寝れるわよ。

2009年12月15日火曜日

18. 月曜日。

月曜日、日本から戻って仕事ムードにしたいところ。グラムの電話で私は混乱状態なので、この打ち合わせで心機一転したいところだった。車がマンハッタンに入って42丁目あたり、私のいつも車を入れる駐車場に向かっているときに電話が鳴った。誰からか見なくてもグラントだということは分かった。電話をスピーカーで取った。マンハッタンでのハンドフリーでない携帯電話での会話の罰金は高い。

”Pに電話したか?”
とグラムは話し始めたが、

”今、市内を運転中なのよ。車を停めてから電話し直すわ。”

というと、

”そうだな,気をつけないといけない。後で電話してくれればいい。”
と優しく言った。

車を駐車場に入れた後、仕事先に行くまでの間に電話をしたが、ストレートに彼のボイスメールに繋がった。
今から打ち合わせだから話しはできないとメッセージを残した。

電話はそれからなかった。
打ち合わせが終わった後、YMCAまで行ってみようかなとちらっと思った。
でも,関わらずに済むなら関わらない方がいいのだ。
みんなが言うように、自ら不幸を招く必要はないのだ。

電話がグラムから電話がかからなかったので、帰ることにした。
すると、家に向かっている途中に電話があった。

”今どこにいる?”

”家に向かって走っているわ。

”おぉ。バッテリーがなくてかけれなかったんだ。
どうやら、行くところがないようなんだ。
連れて帰って欲しかった。”
と言った。

”YMCAにはもう居れないの?


”お金がもうないんだ。


”ラッスル E バレイズデールに電話してみた?

”いいや。”

”ケントのアイスホッケーの練習の後、親たちのミーティングがあるし、迎えにはいけないわ。
どこにいるの?

”56丁目あたりかな?どこにいるのかも分からない。”
と言った後,彼はうなり声をあげた。

オー・マイ・ゴット。私は静かに目を閉じた。心が痛んだ。
気が狂う寸前といううなり声だった。彼は56丁目のどこかのストリートでうなっているのである。

電話をどこかで充電しないと切れてしまうと言った後,ぷつっとすぐに切れてしまった。

私はあの声を一生忘れないと思う。凄く怖かった。

私は彼が病院を出た後、クライシスセンターに行き、その後に行くはずのラッスル E バレイズデールに電話してみた。
電話に出たブルースはこう私に説明した。

”本人に電話をここに掛けさせなさい。そうでないと受け付けられない。病院からのdetoxの証明も必要なので,詳しいことを本人から聞かないといけないから,彼にかけるようにいいなさい。”

その後にまたグラムは電話して来た。これはラッキーだった。

”ラッスル E バレイズデールは本人でないと受付出来ないと言っているわ。

メールで電話番号を送るわ。

と言った。

電話が充電出来ないままでいるらしく,またすぐに切れた。

そしてまたかかった。

”君のくれた電話番号は間違っている,かからない。”
というのである。
掛けようとしていることは伺える。もう一息である。

”今,そこに電話をかけて喋ったところだから,かかるはず。
ブルースという人にかけて欲しいのよ。”

電話がかかる度に,私は同じことを繰り返した。
こんな細切れの電話の会話を数度か繰り返したと思う。

もし,ここに行けなければどうするのだろう?
へレンに電話した。メディカルスチューデントのクレークがヘルプ出来ないのだろうかと?
ボイスメールに残した。
メアリにダンカンという友達の収容所はどうなっているのか聞いてみようと電話したが、またボイスメールに繋がった。
1,2時間後にメアリが電話して来たとき,彼女はこういった。


”ラッスル E バレイズデールが
YMCAにいるグラムを車でピックアップすることになっている。確か,迎えにいくのはブルースという名だった。”
という。

私はまた、ブルースに電話した。
グラムは電話をしたようだった。

”本人から電話がありました。それから病院に連絡して裏書きを取ったところ、detoxは終えていると云うことなので、一応,うちで引き取れると云う許可は出ました。”

”サンクスゴッド。”

”ただ,今ベットの空きがないので、しばらくYMCAに滞在して空きを待ってもらわないといけないのです。酒の飲まないようにしていただかなくてはここには入れませんよ。”
と念を押された。

”しばらくってどのくらいかかるんでしょうか?”

”1週間くらいかな?

”そんなにかかるんですか?もっと早くならないのでしょうか?

酒を飲んでおかしくなっているとは言えなかった。飲んでないと嘘をつかなくてはならなかった。けれど、かなり悪い状態なので早くそこに連れて行きたいと私の立場も含めて、念を押した。

それからしばらくグラムから電話はなく、アイスホッケーのミーティングが終わるまで電話は鳴らなかった。しかし、まるでこちらの状況を把握しているかのように、その部屋を出た瞬間に電話は鳴った。

今、YMCAのカウンターにいる。支払いができない。君のクレジットカードの番号を彼女に言ってくれ。
というのである。私はできるだけまわりに人がいないところまで行き、

”グラム,何を言っているの?どこの誰だか分からない人にクレジット番号なんか渡せないわ。”

と言った。

”分かった.他に聞いてみる。”
と怒って電話を切ってしまった。

こんな突然の電話で,酔っぱらいにクレジットカードの番号を教える馬鹿もいまい。

YMCAに滞在出来なくなった今、一体、ブルースはどこから彼を拾うのか?
家に帰って私はすぐにブルースに電話した。

”お金がなくなってYMCAを追い出されたみたいなんですが,どこに彼は行けばいいんでしょう?


ブルースはクライシスセンターのことを私に説明してそこに電話するように言った。
ラファイエットのクライシスセンターは、グラントが病院を出た後に行って、ひどいところだと言って出て来てしまい、YMCAに入ったことを説明した。

それならハーレムのクライシスセンターの電話番号を教えましょう。勿論,素敵なところではないですけれど悪いところではありません。こことクライシスセンターは連携しているので,ベットが空き次第、こちらから車を出して迎えに行きます。
と言ってくれた。

グラムはひっきりなしに電話をして来た。この状態においては、こうしてグラムが電話して来ることは有り難かった。
YMCAのお金は友達が払ってくれたと言った。そんな友達がいるのだ?とクエッションマークの私。
ブルースの紹介してくれたクライシスセンターのことを話した。
思った通り,クライシスセンターと言っただけで拒否反応。

”あそこはだめだと言っただろ。ひどいところなんだ。”
と怒ってしまった。

”ここは違う場所なのよ。ハーレム。


個人的に私の意見だが,ラファイエットよりハレームの方が聞こえが悪いが、この際,ハレームはいいところだと説明するしか方法がなかった。

”電話してみて?番号はメールで送る。
しかし、かけるとは思えなかったので,私がかけた。

ここはベットがないと簡単に断られた。

またブルースに電話。
またかけて悪いんだけど,ハーレムのクライシスセンターにベットがないと言われたんだけど
というと、今度はブロンクスの電話番号をくれた。
何度も電話して悪いわね。
と言うと、
気にしなくてもいいですよ。困ったらいつでもして来なさい。
と言ってくれた。

はっきり言って、
ブルースがくれる電話番号はどんどん北に向かって危険な地域に入って居るなと私は思った。
勿論,ブロンクスと聞いてグラムがかける訳がないので,私がかけた。

”月末はいっぱいになるのよ。ベットを見つけるのは難しいと思うわよ。それで、彼、お酒飲んでないのね。クライシスセンターって結構厳しいのよ。お酒が抜けていないと受け付けないわ。”

私が別れた妻でこんなことをする必要はないけれど、見かねて電話していると説明したせいか,彼女は凄く私に優しかった。彼女の説明でクライシスセンターというところがどんなところか分かったし、グラムが何を見たのか分からないが、彼の言うほどひどいところには思えなかった。
とにかく、努力はしたが、グラムを送るところを見つけられなかった。
仮にこの2つのクライシスセンターが空いていたとして、グラムが地下鉄に乗って、ブロンクスに行くとも思われなかった。

じゃぁ、私がお金を出して彼をホテルに入れるか?
彼はホームレスでどこか寝るところを探すか?
うちに迎え入れるか?
3択しかないようだった。

グラムが公園で寝ると電話して来た。
この際、公園に寝てもらおうと思った。公園に寝れたら、たいしたもんだと思った。

11時ごろ、電話が鳴った。

”寒くてとても公園には寝れない。

思った通り意気地なしだった。

”で、迎えにこいと私に電話しているのね。

”頼む。
車の中で寝てもいい。”

”どこのパーク?

”47丁目の、、、。”

”わかったわ。自分が住んでいたマンションの前で待っていて。”

”ありがとう。”

”ケント,アンタのおとうさんは一晩も公園で寝れないそうよ。迎えに行って来るわ。

’えええええ。ここに来るの?”

”仕方がないわね。この事態では。そのつもりしなさい。
車の中で寝ると言っているわ。

ケントは本当に嫌な顔をして、
”車の中なんて、嫌だ。”

”じゃ、地下はどう? 今日は地下で寝てもらうわ。それでどう?

ともかく、グラムがここに来るというこということ自体に問題がある。

また、ブルースに電話した。
クラーシスセンターは無理だったこと、グラムが公園で寝れないこと、私がここでそこに入るまで面倒を見るから、酒は絶対に飲ませない。
できだけ早くベットを見つけて欲しいと頼んだ。

ついにブルースはこう言った。
フーディ、明日の朝また電話をしてきなさい。キャンセルが入るってこともあるから。

2009年12月2日水曜日

17. 馬に水。

その夜,へレンから電話があった。

”すぐに電話が出来なかったけれど、メアリと喋ったわ。
私とフーディがグラムの子供を持っているという理由で、グラムの全ての問題ごとのとばっちりが来るのは困る。特にフーディは近くに住んでいるからグラムが助けを求めて、しかも面倒を見なくてはいけなくなるから、可愛そうだって言ってやったわ。私は遠くに住んでいるから直接、問題を被らなくて済んでいるけれど。癌だと連絡があって、子供たちがパニックになったこととか、いろいろ言ってやった。彼女はそれはひどいわねとすごく同情してくれたわ。
でも彼女もこの12年間大変だったようよ。
彼女の豪邸は抵当に入って手放したのだそうよ。彼の保険代に1500ドルも払っていたそうだし、グラムのアル中で苦しんだと言っているわ。彼女も気の毒よね。
メールのアドレスくれたから、これからは楽に連絡出来るから助かるわ。”

さすがにこの2人はお金のことを沢山喋ったようである。
私が決して聞かないサブジェクトである。へレンが仕入れてくれるインフォは私が訊けないことばかりなので助かる。
メアリの人生がグラムのせいで大変だったと聞かされても、それは彼女の選んだ人生である。私が今、こうしてグラムのことで神経をすり減らさなくてはならないのは、とばっちりである。そこのところの違いをメアリにはどうしても分かってもらわなくてはならない。
メアリがカレンに送った今後のグラムの行き先を書いたメールはCCでうちにも送られて来た。

私もメアリが電話して来てくれたこと、病院に行った時のこと、グラムの状況などを簡単に話した。
一人の男に3人の女が関わっている。しかも私以外はお金を持った美人である。
グラムという男は、やっぱりラックを持っていると私は思う。

次の日の早朝,7時前、グラムからメールが入った。

ー 昨日は2人で来てくれてありがとう。持って来てくれたバックに入っていた全て、パーフェクトにフィットした。今日の朝は気落ちのいいシャワーを浴びた。持って来てくれたものを全部使った。ひげを剃り、髪をとかし、ヘアスプレーで整えた。僕のことを気にかけてくれて本当にありがとう。ラブ グラム。

どうやら、朝早く病院を出て行くようであった。

全ては予定通りにいってもらいたいものだ。
私は作品を創り始めていた。この状況において、作品作りは私の精神安定剤となった。作品を創るということは、一から何かを生み出す作用である。作りながら、デザインを変えていくので楽しい。仕事のように決められていないから、どんどん意欲もわいてくる。
手作業をしている間は、同じことを考えていても、苦にはならなかった。

彼がイギリスに送り返されて以来,電話が鳴ると、ドキッとするのが続いている。
グラムでありませんようにとIDを覗き込む。
それがこのところ,ずーっと、それはグラムなのだ。
病院にいている間はまだ居所がはっきりしていて安心だったが、誰の監視下でもなくなったグラムの足取りには不安があった。メアリは今日、スコットランドに発つはずだ。

夜、グラムから電話があった。

”本当に服や何かとありがとう。全部ちょうどいい大きさだった。”

”そうよかったわ。新しい場所はどう?

”行ったが、出て来てしまった。それは、それはひどいところだった。あんなところにいたらエイズになってしまう。注射を打とうとしたんだ。本当に、ひどいところなんだ。”

”えっ? じゃぁ、今どこにいるの?

”YMCA。ミッドタウンの。”

話し方から、酒を飲んでいると私は思った。
一体、どうする気なんだろうか?

”Pに連絡してくれたか?”

”いいえ、まだしてないわ。

”まだ、カリフォルニアにいるみたいだ。”

”これからどうするの?

”あぁ、大丈夫だ。何とかする。じゃ。”

お決まりの文句だったが、どうなるとも思えなかった。しかも、また酒を飲んでしまうとまともな思考能力はなくなる。全くお金のない人間がYMCAに泊まるのも難しいんではないだろうか?
私が知る限りでは、私が渡した60ドルだけのはずである。

電話をとるのが怖いと思ったのはこれが始めてのことだ。
この調子だと、警察から死体があがったと連絡があってもおかしくないような気がした。
だから、電話がないと今度は心配になる。電話がグラムからである限りは生きているんだから良しとしなければならなかった。

ジョージから電話。

”グラムから電話があって、謝ってくれたんだ。
あいつのこと、僕もだいぶ落ち着いて考えられるようになった。”

”そう、それはグッドニュースね。
犬でも、あんな風にイギリスに帰されたら、状況に対応できなくて,下痢をするわ。グラムが言うことを聞く訳がないわ。だから、心配したのよ。”

”そっちはどうだい?大丈夫かい?”

”状況はいいとは言えないわ。グラムの行き先が決まっていないし、毎日電話はかかってくるし。”

”気をつけなくてはいけないよ。こっちでも心配している。”

”ありがとう。”

私も余り時間がなくなって来たので、仕事に没頭する必要があった。スケージュールを決めて、ひとつひとつしていかなければ、ショーに出す作品は間に合いそうになかった。
作品を創りながら、ジョージとの電話のことを考えた。
でも、どうして謝ったんだろう?

夕方近くにはもっと心配になって来た。まさか、死ぬつもりじゃ?
私はなぜ、彼の自殺を怖がったかというと、酒の量が普通でないので、間違った判断をするのではと恐れたこと。グラムの父親のことから来る妄想。私ならこの状態なら死んでるかもしれないと思うからだ。
それに私は私の友達を自殺でなくしている。彼女は夫の浮気相手が彼女の親友と分かった日から毎日,死んでやると言って、本当に逝ってしまったのである。父の死ぬ2ヶ月まえのことだった。そんなことが起こるとは、あの時は思わなかった。だから、怖いのである。そんな連絡だけは受けとりたくないのである。

電話をしてみた。自動的に留守番電話に繋がった。
”大丈夫だといいけれど”
とメールボックスに残した。

それから1,2時間後に電話があった。

”どうしたんだい?こんなに朝早く。”

”グラント,夕方よ。大丈夫?”

”部屋が暗くて時間が分からなかった。”

時間の観念もないのである。一体どんな状態で部屋にいるのだろうか?

”ジョージから電話があったわ。話しをしたの?”

”あぁ、した。全て、大丈夫。”
と言って、切ってしまった。

グラムのことに関してはへレンだけが私の話し相手なので、電話してみたが,捕まらなかった。
すると、長い、長いメールが返って来た。

ー 電話は受けとったけれど,かけ直せなかったの。クレークが友達を連れて帰って来ているの。
グラムがクレークに、
”お金を貸して欲しい。このことはお母さんには内緒にして欲しい。”
というメールを送ってきて、
”22歳の大学生の僕にはそんな金はない。”と返信したらしい。
最終的にはグラムは、済まなかったと返信したようだけれど。
ひどい話しだと思わない?
detoxに入らなければいけないわ。
私がグラムの人生にまた介入しているのは,彼が膵臓癌で,またそのことを子供達に、あなたのおとうさんは死ぬかもしれないなどと話してしまったからなのだけれど、結局,癌ではなくアル中の問題だとなったら,私はもう関わり合いたくないわ。結婚しているときに散々なめにあって、これ以上は願い下げよ。
アディクション・センターのラッスル E バレイズデールに行く前に酒を抜いておかないと入れないわよ。そのためにクライシスセンターに行かなければならなかったのに,出て来てしまっているし。
そりゃ,ホームレスたちが行くところですもの、カリフォルニアの金持ちの行くクリニックのようなところではないでしょ。ひどいところに決まっているわ。
私はもう彼のドラマに関わりたくないの。父親は死ぬかもしれないと思って心配した後、死なないと分かったら、アル中でホームレスで金を貸してくれじゃ,親らしいこともしてもらっていないのにクレークもたまったもんじゃないわ。私達はもうグラムには降参よ。

あなたの立場は分かるし,近くにいるから怖いとは思う。私にはまともなアドバイスはできないわ。
私は彼のアル中の世界にはもう,決して、関わり合いたくないわ。
私の気持ち,分かってちょうだい。

気をつけて。へレン

ー ジョージ
から電話があったんだけれど、グラムはトムに謝ったらしいの。そのことを聞いた後、
私は彼が自殺するんではないかと思ったのよ。それで,怖くなったの。
グラムがクレークにメールした内容って、通常じゃないわね。
あなたの気持ちはよくわかる。

すると、早速メールが返って来て。

— そう,謝ったのね。よかったわ。
謝るべきだったもの。
大丈夫よ。彼は自殺したりしないわ。この状況って,このことわざに言い尽くされるわね。
“we can only lead a horse to water; we can’t make him drink”.
馬を水飲み場まで連れてはいけるが,飲むか飲まないかは馬次第。

そして,彼女がAl-Anon(アル中を家族に持つ者たちのためのミーティング)で勧められて読んだ本が私の助けになるかも知れない言った。
“The Language of Letting Go-Daily Meditations for Codependents” by Melody Beattie published by Hazelden Foundation.

クレークにお金を借りようと思うなどとは、グラムはすっかりいかれている。
ジョージに電話して謝ったということが、グラムの自殺?に結びついたが、これらの話しを聞いていると、彼が死ぬなどということはないような気がして来た。落ち着いて考えると、今日はジョージの誕生日だった。勿論,最愛の兄の誕生日はいくら酒を飲んでいても忘れなかったようである。誕生日と言う立派な名目で最愛の兄に電話がしたかったのだろう。
ジョージの誕生日は忙しい日となった。ビルからもメールが来た。

ー ケザウィックに行くべきだと思う。おそらくこれが彼の人生で立ち直るための最後のチャンスだろう。彼の場合,すでに頂点を超しているから,余り期待ができないという気もするが,本人がその気になるならば、僕が手付けにいるという240ドルを出そう。これぐらいしか僕は彼にしてやれない。これ以上のことはできない。これ以上のお金は出せない。今回,彼が更生出来なければ,もう僕たちには何もしてやれないだろう。チェックを送る住所を教えてくれ。今,孫が来たのでしばらくは、ばたばただ。ビル

ヘレンの言う通りで、私も関わらなくて済むなら関わり合いたくはない。
しかし,うちに連絡がある限り私はこの騒ぎがおさまるまで関わらなくてはならないのだ。
誰もがグラムが行かなければいけないところを知っている。
私達ではなく、アル中の専門家が彼を救わなければならないのだ。
それなのに,誰も彼をそこに送り込めないのだ。何かが間違っているからそれができないのである。

誰が水飲み場まで連れ行くんだ?

誰かが正しいことをしなければ,いつまでたっても同じことの繰り返しなのだ。そして誰もが間違った判断で,間違った扱いをしているように思えた。12年前,いやもっと前,始めてグラムに出会った時から,彼は人間的にチャームを持ているくせに酒を友にする度に間違った方向を向いて進んでいた。それを誰もが知っているのに,誰もが方向を変えらせ得ないのである。緊張状態の中、今これを終わらせなくては終わらさせる時はもうないだろうと思った。
私が水飲み場まで連れて行かなければならない私なのだと思った。